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東京高等裁判所 昭和37年(ウ)691号 判決 1963年5月29日

判   決

横浜市鶴見区生麦町明神前一七番地の一

債権者

麒麟麦酒株式会社

右代表者代表取締役

川村音次郎

東京都目黒区三田二四七番地

債権者

日本麦酒株式会社

右代表者代表取締役

松山茂助

同都中央区京橋三丁目一番地

債権者

朝日麦酒株式会社

右代表者代表取締役

山本為三郎

京都市伏見区竹中町六〇九番地

債権者

宝酒造株式会社

右代表者代表取締役

田中豊

右債権者四名訴訟代理人弁護士

清瀬一郎

内山弘

佐生英吉

横山勝彦

稲葉隆

高橋三郎

田中慎介

久野盈雄

今井壮太

東京都渋谷区上通四丁目三九番地

債務者

ライナービヤー株式会社

右代表者代表取締役

野原光雄

右訴訟代理人弁護士

柴田武

花岡隆治

斎藤兼也

田宮甫

向山義人

鈴木光春

右当事者間の不正競争行為禁止仮処分命令申請事件について当裁判所は次の通り判決する。

主文

一、債権者等が共同して債務者に対し保証として金五百万円を供託することを条件として次の通り定める。

二、本案訴訟事件確定まで債務者はその製造するアルコール含有飲料の容器、包装並びにその広告に「ビヤー」という表示をなし、又はこれを表示した商品を販売拡布してはならない。

三、訴訟費用は債務者の負担とする。

事実

債権者代理人は「債務者はその製造するアルコール含有飲料の容器、包装並びにその広告に「ビヤー」という表示をなし又はこれを表示した商品を販売拡布してはならない」との判決を求め、その申請の理由として末尾添付の別紙申請書の通り陳述した。

債務者代理人は債権者等の申請を却下するとの判決を求め答弁として末尾添付の別紙答弁書の通り陳述した。

説明(省略)

理由

一、ビールは極めて古くから人類が飲用に供して来たアルコール含有飲料であつて、麦芽を主原料とし、これに澱粉を加え又は加えないでホツプを添加した麦汁を酒精醗酵させたいわゆる醗造酒の一種に属すること、我が国酒税法(第三条第九号)においてはビールの定義が債権者主張の通り規定されていること及び債権者四社が我が国政府の免許をうけて、ビールを製造販売している会社であり、我が国においては他にビール製造業者はなく国内に市販されている国産ビールはすべて債権者四社において製造したビールのみであることは、いづれも当事者間に争がない。

二、ところでビールは英語ではBEER独逸語ではBIERと書きこれを「ビール」とも「ビヤー」とも発音し我が国においてもビールのことを一般に「ビール」と呼ぶ外に「ビヤー」(例えば「ビヤーホール」とか「ビヤ」(例へばビヤ樽)とも呼んでおり「ビール」と「ビヤー」とは同義語であることは公知の事実である。

債務者は「ビヤー」という言葉は熟語又は造語、連続語として用いられた場合にのみ「ビール」と同意義となるか単に「ビヤー」なる語のみ用いた場合には「ビール」と異なる旨を主張し乙第二一号証、同第二三号証にはその旨の記載があるけれども、右記載はたやすく信用できずその他債務者の全立証によつても我が国において「ビール」と「ビヤー」が同義語であるという公知の事実を覆すことができない。

三、そうするとビールという呼称により観念されるものは前記酒税法所定の品質を有する商品であると解すべきである。

四、債務者が酒類、清涼飲料、嗜好飲料等の製造販売を目的とする会社で、所轄官庁から発ぽう酒の製造販売の免許をうけ(ビールの製造免許はうけていない)、酒造法上雑酒第二級に属する発ぽう酒を製造し、これに「ライナービヤー」という名を付けて販売していること、右商品は蒸溜して製造したアルコールを添加した酒(酒造法に則りビールとして納税したものでない雑酒と認むべきもの)なのであることは当事者間に争がなく、成立に争のない乙第一七号証及び弁論の全趣旨によると債務者の製造する発ぽう酒の製法は麦芽少量に澱粉と水によつて甘い汁液を作り、これを濾過して滓を取り除いたものにホツプ及び苦味物質を添加して一種の芳香を与え、これを数日間醗酵させて独得の香りを得た上、これに所定量のアルコールアミノ酸その他数種の調味料を添加して元液を冷却水と炭酸ガスの下で調合壜詰にするものであつて、そのアルコール分は七パーセント、エキス分は三パーセントとなつていること、ビールは酒精醗酵させてアルコールを添加しないので約四、五〇日間の製造日数を要するが、債務者の右製品は酒精醗酵をせず後でアルコールを添加するので約一週間で製造できるものであること、債務者の右製品の色はウイスキ麦芽を使用してあるので自然にビールと同じ琥珀色を呈し人工的に着色したものでないことが認められる。従つて債務者の製造する右アルコール含有飲料は前認定のビールの範ちゆうに属しないものというべきである。

五、債務者はその容器及び包装に「ライナービヤー」と表示して販売拡布し、その広告にも同様の表示をした上「ビヤー界の横紙破り」と記載して広告した事実があることまたそのラベル及び広告に「ライナービヤー株式会社」という記載があることは当事者間に争がない。

我が国においては「ビール」と「ビヤー」とが同意義に用いられていることは前叙認定の通りであるから、債務者の右表示はビールと異質のものであることを示すものとしては不十分であるのみならず、成立に争のない甲第六号証の一乃至六によると、ビールの一般需要家や酒類小売業者は「ライナービヤー」をビールの一種であると思つたことがあつたことが認められ、右認定に反する乙第一九号証、同第二四乃至二七号証の記載は措信できず他に右認定を覆す疏明がない。

従つて債務者のなした前記「ビヤー」という表示は債務者の製造する商品がビールでないのに取引者や一般需要者においてこれをビールの一種であると誤信するものであるから、これは不正競争防止法第一条第五号にいわゆる「商品の品質、内容に誤認を生ぜしむる行為」に該当するものといわなければならない。

六、債権者等が債務者を相手として昭和三四年一一月一四日東京地方裁判所に対し不正競争行為差止請求の訴訟を提起し、昭和三六年六月三〇日同裁判所は債権者等の請求の一部を認容し「被告(債務者)はその製造するアルコール含有飲料の容器、包装並びにその広告に「ビヤー」という表示をなし又はこれを表示した商品を販売拡布してはならない」旨の判決があり、これに対し双方より控訴の申立があつて現在当庁に係属中であることは当裁判所に顕著なところである。ところで債務者は右第一審判決後もそのアルコール含有飲料の容器、包装に「ビヤー」という表示をなし広告にも同じ表示をしていることは弁論の全趣旨により明らかなところである。

七、そして債務者がその製品に「ライナービヤー」と表示して売り出したため、取引者や一般需要者がこれをビールの一種と誤認混同を来したことは前叙認定の通りであるから、その誤認して消費された数量だけ債権者等の製造したビールの消費量が減少したものであり、又将来誤認消費される数量だけ債権者等のビールの消費量が増加しないものというべく従つて債権者等の営業上の利益が侵害され又は侵害されるおそれがあるものというべきである。債務者のかかる不正競争行為により債権者等は本案判決の確定をまつにおいてはその商品販売上回復し難い著るしい損害を生ずるおそれがあるものと認められる。

他方本件仮処分により債務者の蒙る損害を考えてみるに、元来ビールの観念に入らないアルコール含有飲料をビール以外の名称で販売したからといつて、それにより販売量が減少するというわけのものでないし、若し販売量が著るしく低下するならば、それは債務者がビールとの誤認混同に乗じて利益を得たものというべきであるから債務者はかかる損失を忍受しなければならぬこと当然である。

したがつて本件仮処分はこれを求める緊急の必要性があるものというべきである。

八、以上の通りであるから債権者等の本件仮処分申請は理由があるから、保証として金五百万円を立てることを条件としてこれを認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九五条第八九条を適用して主文の通り判決する。

東京高等裁判所第一民事部

裁判長裁判官菊池庚子三

裁判官 川 添 利 起

裁判官 花 淵 精 一

〔仮処分命令申請書〕

申請の理由

第一、被保全権利

一、債権者等四社は政府の免許を受け、我が国においてビールを製造販売する会社であり、常に製品の品質向上に研究努力して来たので、その製品は、今日に於ては、ビールの主産国たる欧米のものに劣らないものとして好評を博し、広く内外の需要者に愛用されているものである。

二、ビールは、およそ四千年前メソボタミヤ時代の昔から人類が飲用に供して来たアルコール含有飲料であり、麦芽を主原料とし、これに澱粉を加えまたは加えないでホツプを添加した麦汁を酒精醗酵させたものを云い、我が国酒税法第三条第九号では、

(1) 麦芽・ホツプ及び水を原料として醗酵させたもの、

(2) 麦芽・ホツプ・水及び米その他政令で定める物品(現在は、米、とうもろこし、こうりやん、ばれいしよ、澱粉、砂糖、苦味料、着色料が政令で定める物品である。)を原料として醗酵させたもの(但し、その原料中政令で定める物品の重量の合計が、麦芽の重量の一〇分の五を超えないものに限る。)

(3) ビールに炭酸ガスを加えたもの の三種をビールと指す旨を定義しており、ビールはいわゆる醸造酒の一種である。

三、我が国においては、現在債権者等四社以外にビール製造業者はなく、現在迄に市販された国産ビールは、ほとんどが右四社又はその前身の製造したもので、且つ前記二、記載の定義のものであつたから、一般需要者がビールと云う呼称により観念するものも亦、この定義の品質を有する商品であること言を俟たない。又、右定義以外の品質の商品が我が国内で、ビールと云う呼称で用いられたこともなかつた。

四、而して、ビールは、英語では、BEER独逸語ではBIERと書き、これを「ビール」とも「ビヤー」とも発音し、我が国においてもビールのことを一般に「ビール」と呼ぶ外に、「ビヤー」(例えばビヤーホール)とか「ビヤ」(例えばビヤ樽)とも呼んでおり、特に英語教育の普及にともない、今日においては「ビール」と「ビヤー」とは同義語であることは広く一般の知るところであつて、これを公知の事実である。

五、然るに債務者は、酒類、清涼飲料、嗜好飲料等の製造販売を目的とする株式会社で、所轄官庁から発ぽう酒の製造販売の免許を受け(ビールの製造免許を受けていない)、酒税法上雑酒第二級に属する発ぽう酒を製造し、これに「ライナービヤー」と云う名を付けて販売しているのであるが、右商品は、前記二、記載の定義に該当しないところのもので、蒸溜して製造したアルコールを添加した酒(酒税法に則りビールとして納税したものでない雑酒と認むべきもの)なのである。

而して、

(1) その容器及び包装に「ライナービヤー」、「ライナー黒ビヤー」又は「LINER BEER」と表示して販売拡布し、その広告にも右同様の表示をし、且つ、甚しきに至つては、自ら「ビヤー界の横紙破り」誇示して、ビール界における特異の存在であるかのように宣伝するに至つている。

(2) その容器には、債権者等が従前から各社のビールに使用したものと同一規格の壜(昭和三一年通産省令第四〇号「計量法第七三条の表示容器に関する省令」別紙中ビールに関する部分の四番目―規則様式第五の三―に掲げるもの)を用いている。

(3) 右商品は、本来のビールに似た色相、味、発ぽう性等を持たせてある。

(4) 右(1)の表示中には、「ライナービヤー株式会社」及び「LINER BEER CO., LTD.」と云う表示もなされており、その製造元又は発売元が特定のビール会社であるかの様に表示しているのである。

六、以上のように債務者の製造する商品がビールでないのに、これにライナービヤー、ライナー黒ビヤー、又はLINER BEERと云う名称をつけると、取引者や一般需要者においてこれをビールの一種であると誤信することは必定であり、又その酒精含有飲料の製造元又は発売元の商号として「ライナービヤー株式会社」又は「LINER BEER CO., LTD.」と表示すれば、ライナービヤー株式会社と云う商号のビール会社が製造販売するビールであると一般に思料されるのも当然である。

七、これらの事実からの事実からすれば、債務者は、その製造販売する酒精含有飲料が債権者等のような或るビール会社の製造販売するビールであると一般に受け取られるよう商品の混同を意図しているもので、不正競争防止法第一条第五号に所謂「商品の品質、内容につき誤認を生ぜしめる表示」をしているものに該当すると云わなければならない。

八、而して、取引者及び一般需要者に前記のような錯誤を生じ商品の混同を生ずるときは、ライナービヤーがビールとして消費される結果、その誤認消費の量だけビールの消費を妨げ、ひいては国産ビールの声価を墜し、債権者等の商品販売上に多大の損害を生ずるに至ることは明らかである。

第二、仮処分の必要性

債権者等が本件仮処分を求める理由は左のとおりである。

一、債権者等は昭和三四年一一月一四日債務者を相手として東京地方裁判所に不正競争行為差止請求の訴訟(同庁昭和三四年(ワ)第九〇九八号事件)を提起したが、右訴訟につき昭和三六年六月三〇日第一審判決(疏中第一号)があり、右判決は

被告(債務者)は、その製造するアルコール含有飲料の容器、包装並びにその広告に、「ビヤー」という表示をなし、又は、これを表示した商品を販売拡布してはならない。

と判示され、債権者側の不正競争行為差止請求の根幹的部分は認容されるに至つた。右訴訟は現在双方より控訴の提起があり、御庁昭和三六年(ネ)第一六二九号、昭和三六年(ネ)第一六三三号事件として係属中である。

尤も右判決は

「ライナービヤー株式会社」及び「LINER BEER CO., LTD.」の表示は、債務者の商号及びその英語名であつて、商法第二〇条又は同法第二一条に該当する事由もなく、又商品名を単に「ライナー」とし、その下に「ライナービヤー株式会社」と表示したとしても、例えば「ライナーウイスキー」とか「ライナーブランデー」とか表示した場合を見れば判明するとおり、これをもつて直ちにビールとの商品の混同を生ずるのが普通一般であるということはできない。のみならず、債務者が自己の商号である「ライナービヤー株式会社」及び「LINER BEER CO., LTD.」を表示したラベルを使用しているのは、「酒税の保全及び酒類組合等に関する法律」の規定の要請に従つているのであるから、結局右表示を商品又は広告に使用しても、不正競争行為に該当するということはできない。と判示されて、債権者等のこの部分の請求を失当として退けているのである。

併しながら、「ライナービヤー株式会社」という表示が、或るビール製造会社を意味することは、原判決の論旨からしても明瞭であり、又、右商品が、外見上ビールに酷似し、ビール又はビヤーの表示で販売した場合、ビールとの商品の混同を来たすものであることも原判決の判示するところであるから、ビール酷似の商品の製造元が或るビール会社であると表示されていれば、その商品とビールとの混同を生ずることは論理の当然の帰結であつて、債務者が前記発ぽう酒を販売するに当り「ライナービヤー株式会社」等の表示をなすことは、不正競争行為を構成することは明白である。

事実、債務者は、右商品のみを製造販売する会社であり、右商品を本格的に販売するようになつて始めて、商号を右のものに変更したのであつて、この行為は右商品をビールと混同誤認させる為になされたものであることは明白である。

又「酒税の保全及び酒類組合等に関する法律」は、文字通り酒税の保全の為の法律であり、ラベルには会社名を表示せよとしているだけのことがあつて、これに基づく債務者会社名表示のラベルの許可があつたからと云つて、直ちに債務者会社名の表示が不正競争行為に該らないとすることは失当も甚だしいところである。

又、右判決は、

「ライナービヤー」の表示中「ライナー」という部分は、例えばキリンビールの「キリン」、サツポロビールの「サツポロ」と同様に、その商品に個有の名称で、単に「ライナー」と表示してあるのみでは、これによりビールと誤認する虞れがあるということはできない。

と判示して、この部分の債権者等の請求を退けているのであるが、債権者等は「ライナー」の単独表示の差止を求めているのではない。債務者は、「ライナー」又は「LINER」に「ビヤー」又は「BEER」を継いだ「ライナービヤー」又は「LINER BEER」をその商品名として使用し、該行為が正に不正競争行為を構成するので、その差止を請求しているのである。

この義は「ライナービヤー株式会社」又は「LINER BEER CO., LTD.」についても同様である。

因に、債務者の使用するラベルの中央には単に「LINER」と表示された部分があるが、債権者等は、かかる表示まで差止を求めているのではない。

二、然るに債務者は、右第一審判決後も申請の趣旨第一項記載の表示を用いて、国電内、新聞紙上等に広告をして盛んに宣伝するばかりでなく、従来と全く同一の方法をもつて商品を製造販売し続けているのである。あまつさえ、ビール需要の最盛期たる夏を迎える現今においては、右商品の増産に拍車を掛け、自から称するようにビール界に不正の競争をいどみ正に横紙破りとしてその混乱を企図しているのである。

三、債務者の以上の如き行動を容認するときは、ライナービヤーがビールとして誤認消費された量につき債権者等のビール販売量は減少し、又債権者等が多年の研究努力によつてかち得た国産ビールの声価を失墜し、その商品販売上に回復し難い著しい損害を生ずるに至るのは明白なのである。

又、我が国のビール取引業界は、商品の品質、内容、数量等あらゆる点で全く安定し、信用度の極めて高いものであつたから、取引業者及び消費者は安んじて取引できたのであるが、債務者の行為は、消費者に贋物のビールを掴ませて多大の迷惑を被らせ、取引の安全を害して業界の信用を失墜させるものであつて、商業道徳一日たりとも許し難いものなのである。

四、一方、本仮処分によつて予想される債務者の損害は、はなはだ軽微なものと云えるのである。即ち、元来ビールに非らざる酒精含有飲料をビール以外の名称で販売したからと云つて、その販売量が減少する訳のものではなく、名称の付け方によつてはそれ相応の実績を挙げ得ることは、請求外協和醗酵工業株式会社の同種商品「ラビー」にその実例を見ることができるのである。

若し右に反し実績が著しく低下するようであれば、債務者がビールとの誤認混同を利用して不正な競争を企図していた良い証左であり、債務者はかかる損失を忍従しなければならない。

五、債権者等は前述の訴訟提起に先立つて、仮処分の必要を痛感していたのであるが、訴を通じて債務者が反省するであろうと考え、今日迄、申請を遷延して来たのである。併しながらその間、債務者の態度は、はなはだ不当で、反省妥協の色が見えず、あまつさえ訴訟の遅延を策しているので、最早や一刻も躊躇し得ない段階となつたのである。

第三、結  論

このような状態では、前述の訴訟も確定に至る迄には相当の長年月を要すること必至であり、その間、時々刻々債権者等の蒙る損害は、到底回復し難いものとなることは明らかである。

そこで債権者等は、債務者の本件不正競争行為による著しい損害を避け、かつ急迫な強暴(前記横紙破り的行動)を防ぐため、速かに申請の趣旨記載のとおりの仮処分を得たく、この申請に及んだ次第であります。

〔答  弁  書〕

申請の理由に対する答弁

「第一、被保全権利」中

第一項 申請人四社がビールを製造、販売する会社であることは認める。

その余は不知。

第二項 争わない。

第三項 争わない。

第四項 英語、独逸語におけるビールの綴り文字は認める。英語ではビールのことを「ビヤー」と長音的に発音していない。「ビア」である。

その余は争う。

第五項 前段認める。

(1) 表示の事実認める。

(2) ライナービヤーの一部についてかような容器を使用していることは認める。

(3) 味の点を除き認める。

(4) 表示の事実認める。

第六項

第七項

第八項)争う。

「第二、仮処分の必要性」中

その主張の全趣旨について争う。

被申請人の製造、販売する発ぽう酒(註 ライナービヤー)にビヤーの文字を表示、販売してもビールと誤認せしめるようなことは絶対にない。徳川時代に輸入された、和蘭語系のビールなる呼称は永い過程を経て今や全く固有名詞の日本語と化している。このビールの呼称と異るビヤーなる表示は却て世間の人就中需要者に直ちにビールと異る飲料である印象を与えるから彼此誤認、混同を生ぜしめる惧れはない。しかも壜貼付のラベル、広告文からいつても尚更その惧れは生じない。ビールとビヤーとは截然たる区別が自ら存在しているのである。申請人等ビール四社は営業成績日を逐うて隆昌向上し、好況につぐ好況で悲鳴をあげておりライナービヤーが進出(その製造、販売の実績は微々たるものである)したからとて営業上何等の影響も受けていない。

ライナービヤーなる表示のもとに発ぽう酒を製造販売しても適法妥当な行為であつて勿論不正競争防止法第一条第五号に牴触するようなことはあり得ない。

畢竟、本件申請は失当であるから当然却下されるべきものである。

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